昨日の今日は生き死にの闇の中で。(短いお話)
呼吸が出来なかった。
捕らわれてしまった闇の中でもがいていた。
光りなど到底見えず、見えたとしても美しさの前には目映すぎて目も開けられないだろう。
それでも絶望から生まれる痛々しい程の希望にすがってしまうのだ。
今ならまだ間に合うのかもしれないと。
もう手遅れであることも自分には分かっているのに、どうもそれを理解出来るほどの頭は回っていなかった。
――力が入らない。
多分夢なのも分かってはいるが、こうも実感のある夢だと気分悪くて仕方ない。
現実の自分にはどうにかして起きてもらうしかないのだ。
――いい加減気付いてくれないかな。もう朝なんですけど。
正直馬鹿馬鹿しいとは思ったが、朝だから起きろと普通の感覚で分離した本体を起こす事にする。
飲み込まれてしまえば、本当に目を醒ますことはなくなってしまう。
―あと、ほんの、もうちょっと。
朝が来るという事は至極当たり前の事ではあるが、どうも目が覚めるというものが最近になってとても尊いもののように思えた。
起きる事が困難になった。このまま目を開けなかったらどうしよう。呼吸をすることを忘れてしまったらどうしようと。
だからこそこの一日一日を大事に生き抜いてみせようと思ったのだ。
―ただ生きて、今呼吸をしているという事に感謝して己を褒め称えるような。それだけで偉いなと言ってやれるような。そんな尊い人生でありたいのだ。
昨日出来た事は今日出来なくなるのかもしれない。
それでも今日新しい事が出来るのかもしれない。
それは誰にも分からない。過去は変えられないし、未来を見ることは出来ない。
―それでも。
そう、それでも未来は自分の手で変えられるのだから。
昨日の今日は生き死にの闇の中で。
(昨日の苦しみは今日の光になるのかもしれない。ただそれだけを願って今日も目を覚ますのです。)